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The Whipping Boy (TV) ウィッピング・ボーイ

イギリス・ドイツ映画 (1994)

18世紀のドイツの小王国を舞台にした、イギリス風のウィッピング・ボーイの映画。シド・フライシュマン(Sid Fleischman)による中編の児童向け小説を、大幅に改良したTV映画。海外のTV映画によくあるように、“ヨーロッパの新人監督の低予算映画” や “アメリカのインディーズ映画” などと比べれば、余程手寧に作られている。主人公のジェミーは、下水渠でネズミを捕っては “犬とネズミの戦い” 用の賭け屋にそれを売るという浮浪児だが、母が急逝するまでは、当時としては非常に珍しく字の読み方と書き方を母から習っていた。一方、小王国の唯一の王子ホレースは、外交問題にばかり熱心で息子のことを顧みない王のせいで、教師を拒絶し、自分の名すら書けない我儘息子になっていた。ホレースは町中を馬車で走らせ、水溜りの水を通行人に掛けるという悪ふざけに昂じていたが、ある時、大量のネズミを捕獲して持っていたジェミーを見つけ、悪戯用にネズミを寄こすように命じるが、生活の糧を奪われるジェミーは拒否して逃げる。しかし、結局、王子の衛兵により拘束され、王子のウィッピング・ボーイにされる。物語は、そこから始まり、ジェミーの妹、隣国の大使、悪漢2人、ジプシー2人と熊が主要な脇役として登場し、1時間36分というTV映画としては長い上映時間をフルに楽しませてくれる。

この映画のテーマとなっているウィッピング・ボーイは、16-17世紀のイギリスで、実際に存在したという “一種の誤解” が今日まで続いており、それがシド・フライシュマンに同名小説を書かせ、あるいは、マーク・トゥエインが『王子と乞食』の中で、“王子を気違いだと確信しつつ、臣下のように仕える真似をしてきたマイルズ” が、“奸計でマイルズの地位を奪った弟が王子〔ヘンリー8世の死後なので暫定王位〕を鞭打とうとした” 時、可哀想に思い、代わりに鞭打たれ、それに感激した王子が王位に就いた時、マイルズを伯爵にしたことの伏線にもなっている。歴史上、イギリスには、これまで、この『王子と乞食』のエドワード6世(1537-53)の王子時代に、父のヘンリー8世が友達グループを与え、その中の1人、初代のUpper Ossory男爵の長男Barnaby Fitzpatrick(1535?- 81)が、1551年からウィッピング・ボーイ的な役割を僅かの期間担ったとの伝承がある。また、清教徒革命で処刑されたチャールズ1世(1600-49)の少年時代には、スコットランドの牧師の息子William Murray(1600?-55)が王子と一緒に教育を受け、友達のように親しくなり、場合によりウィッピング・ボーイ的な役割を果たしたとの伝承もある。この時の功績が認められたのか、彼は1643年に初代のDysart伯爵に任じられる〔マイルズそっくり〕。しかし、この2人が本当にウィッピング・ボーイであったという直接的証拠はなく、WEB上でも、“嘘のウイキペディア” を別とすれば、否定的な意見しか見られない。イギリスのような大国でも、このような状況なので、18世のドイツの小王国でウィッピング・ボーイがいたという伝承は全くない。だから、この映画は、あくまで、ファンタジーとして楽しめばいい。ただ、伝承のウィッピング・ボーイは、最初から王子の友人と遇されるような出自の人物であることが共通条件で、この映画のように、ネズミ捕りの浮浪児がウィッピング・ボーイになることはあり得ない。ただし、この映画の、映画史上最も幸運なラストは、伝承のウィッピング・ボーイと王家との関係をある程度継承している。

ジェミー役は、トゥルアン・マンロー(Truan Munro)。1979年生まれ。これが映画初出演。翌年に製作されたTVミニシリーズの『小公子』で、セディのニューヨークでの親友ディック役を演じている。映画への出演はそれで終わりだが、2006年から10年間、助監督として映画界に残り、その後の消息は不明。ホレース役は、ニック・ナイト(Nic Knight)。1981年2月9日生まれなのでトゥルアンより確実に1歳以上年下だが、映画の中では逆転して見える。ニック・ナイトも子役の期間は短く、2年後の『ジェーン・エア』の端役が最後。その後、映画界から去った。下の写真の左は、私の所蔵する海外DVDの『小公子』から取った1コマ。顔も雰囲気も変わっていない。彼の役は、なぜかいつも浮浪児。右の写真は、WEB上で見つけた『ジェーン・エア』の3枚の小さな写真のうち、一番ホレースに似たもの。こちらは、共に上流階級だ。

あらすじ

映画の冒頭、典型的な中世の城から王室の馬車が出て来る。この城は、ドイツにあるビューレスハイム城(Schloss Bürresheim)。1枚目の写真は、ネット上に数多く出回っている似たような構図の写真の1枚。映画の中でレオナルド・ダ・ヴィンチの飛行機が出てくるが、この絵の写本『Cod. Atlantico』が 流布し始めるのは、ダ・ヴィンチの死(1608)後20年ほど経った1630年以降。従って、映画の時代設定は1630年以降で、18世紀の半ばまでの間。この城のある国は、ブラーテンブルグ(Bratenberg)という架空の小国。ドイツは30年戦争(1618-48年)以後、小さな国が独立国となるので、映画の言語は映画だが、ロケ地はドイツとフランスなので、ドイツが舞台と思って観るのがいいのではないか。さて、王室の馬車がやってくるのを気付いた2人の婦人が笑みを浮かべて頭を下げていると(2枚目の写真)、馬車がワザと舗石の窪みの水たまりに車輪を入れ、飛び散った水が婦人に掛かる(3枚目の写真)。それを見た馬車内のホレース王子は、“やった!” とガッツポーズ(4枚目の写真)。これで、ホレース王子の性根の悪さがたちどころに分かる〔原作にはない、とてもユニークなシーン〕
  
  
  
  

次のシーンは、この映画の主役、ネズミ捕りのジェミーが、9匹の大きなネズミを捕獲して下水渠から出てきたところ(1枚目の写真)〔これも原作にはないシーン〕。ジェミーは、妹のエニローズが犬を追い払いながら汚い小屋から飛び出てきたのを見て、「すごいだろ、見てみろよ」と自慢する(2枚目の写真)。ジェミーが肩から掛けているのは、ネズミ捕りであることのサインだが、この国では、このようなサインを身に着けていないと、ネズミを捕れないらしい。エニローズは、①複数の犬に小屋の中がメチャクチャにされた、②その原因は、小屋にドアすら付いてないからだと訴える。それを聞いたジェミーは、「ちゃんとした住まいを約束したろ」と、弁解する。「いつ?」。「すぐ」。「荷物を持って来いよ」。「ちゃんとした住まい〔Proper lodgings〕よ」(3枚目の写真)〔映画の最後にも出てくる重要な言葉〕
  
  
  

2人が通りを歩いていると、ホレースの馬車に水を掛けられる(1枚目の写真)。ホレースは、喜びも束の間、相手がネズミ捕りだと気付き、「停めよ!」と命じる。ホレースが、馬車から顔を出すと、エニローズは 「何てことすするのよ!」と文句を言うが、ホレースが、「ネズミ捕り、そのネズミを余に寄こすのだ」と命じる。ジェミーは 「とんでもない! 僕が捕まえたんだ!」と拒否(2枚目の写真)。「余が誰だか知っているのか?」(3枚目の写真)。「知るもんか」。「余はホレース、ブラーテンブルグの王子だ」。それを聞いたエニローズは、「悪たれ〔Brat〕王子」とBratenberg(ブラーテンブルグ)の最初の4文字が示す別の意味をうまく使って、有名なクソガキだとジェミーに教える。それを聞き付けたホレースは、「何だと? 何と申した?」と咎め、エニローズが同じ言葉をくり返そうとすると、ジェミーはそれを遮り、「何も」と 事態の悪化を避ける。「それらのネズミを寄こすのだ。今すぐ!」。「自分で捕って来いよ。僕は、こいつらを売るんだ」。お金を払って買えばいいのに、ホレースは、御付きのデブ老人にジェミーを捕まえるよう命じる。当然、追い付けるハズがない。「済みません、殿下、ガキめにするりと逃げられました」と報告する。ホレースは、「そちを探し出してやるぞ、このネズミ捕り!」と いなくなった方に向かって叫ぶ。
  
  
  

ジェミーとエニローズは、捕まえたネズミを売るために、犬とネズミを争わせて賭けをしている胴元(『パットン大戦車軍団』のジョージ・C・スコット)に会いに行く(1枚目の写真)〔原作に店は登場しない〕。ジェミーが胴元の席の柵の上にネズミの入った籠を置くと、ネズミを買い叩きたい胴元は、「残念だが、今日は もうネズミは要らん」と、笑顔で言う。ジェミーは、「そう? じゃあ、明日また来るよ」と言い、さっさと籠を降ろす。そんなことは予想もしていなかったので、胴元は慌てて 「待て、待て! 礼儀作法も知らんのか? 見ないと言った訳じゃない」と引き留める。ジェミーは、再び籠を置く。「ひ弱で、痩せこけとるのばかりじゃないか。猟犬を見ただけで気絶するぞ」。「極上の戦士だ」(2枚目の写真)。「極上の戦士だと! 親仁さんみたいに ネズミ捕りの王様にでもなったのか?」。ジェミーは、「父さんに冥福を」と言って、再度 籠を降ろす。「2ペンスやろう」〔全部で〕。「1匹2ペンスだ!」。ネズミが1匹もいなくて賭けができないので、店の中の客が騒ぎ出す。ジェミーは、1匹1ペニーで妥協し、「9ペンス」と言って手を出す(3枚目の写真)。胴元は、「俺を救貧院に入れる気か?」と言いながら、9ペンス渡す〔場所はドイツかもしれないが、ペニーと救貧院はイギリス〕
  
  
  

ジェミーはエニローズを連れて、間借り人が1人追い出されたばかりの下宿屋の女将に、「部屋見せてよ、お金ならあるよ」と、声をかける。「上がっといで」。女将は一番上の部屋まで連れて行く。階段を上りきったところが部屋になっているので、ドアも何もない。狭い場所にあるのは、ベッド1、テーブル1、棚1、ストーブ1、窓1のみ。女将:「前払いだからね」(1枚目の写真)。ジェミー:「まだ、借りるって言ってないよ」(2枚目の写真)。エニローズ:「ジェミー、ここ好きよ」。女将:「窓からの眺めもあるし」。ジェミー:「煙突が “眺め” かい?」。エニローズ:「ここにしましょ」。ジェミーは、「水曜まで借りるよ」と言ってお金を渡す。女将:「階段を走らない、騒がない、いいわね?」。窓のところまで行ったエニローズは、「本当なの、ジェミー? 私たち、ここに住むの?」と感激する。「眺めが悪い。川も見えない」〔何か、ロンドンにでもいる感じ。因みにビューレスハイム城の下には町はないし、大きな川もない〕。それでも、エニローズは、「世界最高の眺めだわ」と とっておきの笑顔を見せる。
  
  
  

翌日、ジェミーがネズミを捕りに行くと、待ち構えていた衛兵に捕まり、そのまま馬車に乗せられて城内に連行される(1枚目の写真)。ジェミーはさっそく大きな樽に入れられ、悪臭が消えるまで徹底的に洗われる(2枚目の写真)。ジェミーを洗っている下働きの女性が、「どこで見つけたんですか? 下水渠?」と訊くと、ホレース御付きのデブ老人は、「その通り」と答える。「王子様は、この子をどうする気なんです?」。「新しいウィッピング・ボーイだ」。「可哀想に」。きれいになったジェミーは、「放せ! こんなの嫌だ。着たくない」と文句を言うが、フリル付きの白いシャツを問答無用で着せられる(3枚目の写真)。「じっとして」。「こんなとこにはいないぞ。妹が心配する」。シャツを着終わると逃げ出そうとするが、すぐに御付きのデブに捕まる。「放せ!」。「観念しろ」。
  
  
  

そこに、ホレースがニヤニヤしながら入ってくる。「ネズミ捕り、何て名だ?」。「知ったことか」。下働き:「ジェミーでございます、殿下」。「すぐ立ち去るからな」。「それはできないな、ジェミー。そちは、余のウィッピング・ボーイだ」(1枚目の写真)。「嫌だ。ウィッピング・ボーイって何だ?」。「父上が余を罰しようと思われた時、余の代わりに そちが叩かれるのだ」。「君の代わりに、僕が叩かれるだって?」。「もちろん」。「なぜ?」。「王子が叩かれるのは、適切ではないからだ」。「なぜ?」。「余を? 未来の王をだと? 余は、生まれてから一度も叩かれたことはない。そちは、叩かれる際、大声で呻くのだ」。「こんなとこに いるもんか」(2枚目の写真)。「金切り声を挙げ、泣き叫べ。それが規則だ」。それだけ言うと、出て行こうとするが、「もう一つ、余が入ってきたら、頭を下げるのだ」と追加する。ジェミーは、ホレースの背中に向かって、「ああ、豚が飛んだらな」〔あり得ない、と言う意味〕と吐き捨てるように言う。ウィッピング・ボーイ専用の服の着付けが終わると、ジェミーは衛兵2人に連れられ、牢屋のような寝室に放り込まれる(3枚目の写真)。そして、ドアには鍵が掛けられ、完全に監禁状態にされる。エニローズは、朝起きると、ジェミーがいないので、さっそくネズミを捕りの出口まで走って行くが、そこで会ったライバルは、今日はジェミーを見てないと言う。エニローズは心配になるが、何もできない。
  
  
  

ホレースは、父と大法官〔イギリス上院で議長を務める国家の最高責任者〕が庭園で話し合っているのを、植え込みの外からじっと見ている。2人の会話は、この国の状況が分かる唯一の場面なので、簡単に訳すると、王:「大法官、余は間違いを望んではおらぬ。フィリップ王の大使は、余を困惑させるのだ。戦争で脅しおる…」。大法官:「しかし、皇太后陛下の肖像画を描かせようと、フィリップ王の宮廷画家を同行させております」。「奴は、譲歩を促し、それに対し、頑固な姿勢を貫いておる」。「はい、陛下。彼は、とても狡猾で、要求の厳しい男でございますから、あなた様を面食らさせようとして〔throw you off balance〕おるのでございましょう」。以上の会話から、隣国リッテンシュタイン(Rittenstein)の王フィリップとは、国境をどうするかで揉めていて、全権代表として大使がやってきて、厳しい要求を突き付けているらしいことが分かる。そこに、侵入してきたのがホレース。父に目敏(ざと)く見つかり、「ここで何をしておる?」と詰問される。「今日、私とチェスの試合をすることを、父上に思い出していただきたくて」。「悪いな、ホレース、余には、今日、チェスなどしておる暇などない。大使と話し合わねばならぬ」。「でも、約束されました」。王は、ここで大法官を去らせる。「馬鹿な大使となど、他の日に話し合えばよろしいのでは?」(1枚目の写真)。「ホレースよ、そちも、両国の国境線について、従弟のフィリップと論争が続いておることは存じておろう」。「ですから?」。「意見の相違を平和的に解決するには、迅速な対応が必要なのだ」。「でも、約束されました」。「ホレース、そちは何も聞いておらんな」。「父上は、約束されますが、いつも忙しいとお断りになられます」。「いいか、そちは、国事が遊び事より優先されるべきことを、十分理解できる年齢に達しておるのだ」(2枚目の写真)〔背景に見えるのは、冒頭のビューレスハイム城〕。王は、ホレースの 「明日ならチェスができますか?」と問い掛けは無視し、庭の端で待っている大使の方に歩いて行く。次に映るのは、フィリップ王の宮廷画家に、“乗馬姿の肖像画” を描かせている皇太后。宮殿内なので、皇太后は馬に模した椅子に座っている(3枚目の写真)〔それにしても、何という稚拙な絵なのだろう〕。ホレースは、木馬に乗ってそれをつまらなそうに見ている(4枚目の写真)〔原作には、大使も宮廷画家も登場しない〕。そして、木馬を揺らせる音が邪魔になるので、王子は皇太后に追い出される。彼にできることといえば、大使に対する復讐しかない。
  
  
  
  

そして、その夜の大使を主賓とした宮廷晩餐会。自分の隣に大使を座らせた王は、ちっとも現れないホレースにイライラする。そこにようやくホレースが現われる。王の隣〔父の左隣が大使、右隣が王子〕に座ったホレースに、「一体、何をしておった?」と詰問する(1枚目の写真)。「料理長を手伝っておりました」。しばらくすると、クローシュ〔銀の皿と、銀の丸い蓋〕を持った3人の召使が入ってくる(2枚目の写真)。そして、その1つを王とホレースの間にも置く。3人が一斉に蓋を取ると、中にいたのは山のようにたくさんのネズミ(3枚目の写真)。ネズミを見た晩餐会の参列者からは悲鳴が巻き起こる(4枚目の写真、矢印はネズミの皿)〔シチュエーションは面白いが、いくら王子の命令とはいえ、料理長がこんな暴挙を許すとはとても思えない〕〔原作にはない〕。大使は、「陛下、繊細な交渉に対し、奇妙な演出ですな」と皮肉を言い、王は、「閣下、これは国王の裁可を経ない行為です。誠に慚愧に堪えません」と謝罪し、「ウィッピング・ボーイを連れてまいれ」と命じる。
  
  
  
  

さっそく衛兵がジェミーの監禁された部屋に向かう。王は、「ホレース、そちは王室の忍耐を試し続けておる。今回 そちは、フィリップ王の大使を怒らせたのだぞ。この種の行為を余が許さぬことを、そちは承知しておろう」と諫めると、そこに連行されてきたジェミーのお尻を6発叩くようホレースの御付きに命じる。ジェミーは2人の衛兵により、長いテーブルの端に這いつくばるように寝かせられる(1枚目の写真、矢印は叩く棒)。1発目があまりに痛かったので、ジェミーは思わず叫び声を上げるが、2回目からは歯を食いしばり、ホレースを睨みながら耐える(2枚目の写真)。ホレースは、「そちは、叩かれる際、大声で呻くのだ。金切り声を挙げ、泣き叫べ。それが規則だ」と命じていたのに、ジェミーがそれに抵抗したので、王子は機嫌が悪い(3枚目の写真)〔こうした王子の態度は、原作を踏襲している〕
  
  
  

王は、ホレースに、「これを教訓とせよ。余らには治めるべき国があり、そちはそれを理解すべき年齢に達しておる」と諭すと、ジェミーには、「これは、そちの痛みに」と言い、コインを1枚テーブルの上に投げて部屋を出て行く(1枚目の写真、矢印は額面不明のコイン)。王がいなくなると、ホレースは、「そちは、余の規則に従わなかった」と怒りをぶつける(2枚目の写真)。ホレースも負けてはいない。「君のためなんかに、涙一滴流すもんか」と反論(3枚目の写真)。「そちは大声で泣き叫ぶんだ、浮浪児ジェミー」。「真っ平ごめんだ!」。「どぶに捨ててやる」。「よっぽどいいね」。「そんなきれいな服を着せてやったのに」。「僕には友だちがいる」。「友だち? 下水渠にか?」。「君なんかより、ずっとまともな」。それを聞いたホレースは、「王子には、友だちは必要ない」と言って出て行く。ジェミーは、衛兵に連れ去られる前に、コインを手に入れると、衛兵の手を振り払って1人で部屋に向かう。その頃、1日中兄を捜し回ったエニローズは、1人寂しく下宿に帰ってくる。
  
  
  

翌朝、ジェミーは、別の部屋に連れて行かれ、ドアが閉められる。ジェミーは、「ドアを開けろ! 出せ!」と叫ぶが、反応はない。ジェミーは、ここはどんな部屋なんだろうと、中に入って見回すと、壁一面が本棚になっている。そして、本棚用の脚立に乗った男が、「あきらめなさい」と言い、ジェミーは、初めてその存在に気付く。「僕、こんなとこにいたくない。僕に強制なんかできない」。「不幸にして、できるんだ」(1枚目の写真)。そして、先に自己紹介する。「私はペックウィック、殿下の王室教師だ。何の因果か分からぬが。君は、新しいウィッピング・ボーイのジェミーだね?」。「すぐ辞める」。「受け入れるんだ。ここにいれば、良い物を食べ、良い服が着られる。教育も受けられる」。「でも、あなたは 理解しておられない。僕には、妹のエニローズがいて、彼女は一人ぼっちなんです。心配のあまり病気になるかも」(2枚目の写真)。そこに、ホレースが入って来る。「お早う、ペックウィック先生。また遅刻しました。6発叩きが相応しいと思いません?」。それを聞いたジェミーは、“何て奴だ” とホレースを見る。ペックウィックは、「それは、見逃しましょう。ところで、あなたの習字帳は?」と訊く。「いいえ、習字などやってないので、少なくと15発は叩かないと」(3枚目の写真)。ホレースは、ジェミーを叩かせたいのだが、ペックウィックはその必要性を認めない〔原作では、ペックウィックもジェミーを叩く〕
  
  
  

ペックウィック:「殿下、あなたは、いつか王様になられます。なのに、ご自分の名前すらお書きになれない」。ホレース:「誰かが、余の代わりに名前を書けばいいのでは?」(1枚目の写真)。そう言った後で、「余はまだ罰せられておらんぞ」。「却下します」。「分かった。余は、父と共に乗馬に参ることにしよう」。そう言って、ホレースは学習の時間をサボって出て行く。そのやり取りを聞いていたジェミーは、「彼、自分の名前も書けないの?」と、呆れてペックウィックに訊く。「なら、君はできるのかね?」。「自慢するほどじゃないけど、母さんに字を習ったよ。母さんに冥福を」。「私がそれを信じるとでも? 浮浪児が字を書ける?」。「母さんは、嘘を付くなとも教えてくれた。少なくとも、紳士には」。そう言うと、机に座り、羽根ペンにインクを浸けて紙に書き始める。それを見たペックウィックはびっくりし(2枚目の写真)、手紙の書き方を教えると言い出す。「僕が? 誰に?」。「妹がいるって言ってたろ。彼女に出せばいい」。ジェミーは王からもらったコインを取り出し、「これ中に入れられる? そしたら、食べ物が買える」と訊く(3枚目の写真、矢印)。次のシーンでは、衛兵がジェミーの手紙を下宿の女将に持って行く。女将は、「戻って来たら、すぐに渡すわ」と言って受け取ると、何の良心の咎めもなしに手紙を開封し、「何て運がいいの」と言いつつコインを自分のものにする。そして、元通りに封をする。
  
  
  

王宮では、広間に多くの貴族が集まり、並べられたイスに座っている。ホレースは、今回も遅刻。王から 「またか」と言われ、皇太后からは 「不愉快ですよ、ホレース」と お小言を頂戴する(1枚目の写真)。ホレースは、「とっても楽しみですね、お祖母様」と笑顔で答える。そして、いよいよ、完成した肖像画のお披露目。前に立った画家は、「ブラーテンブルグ宮の紳士方、私の傑作をご覧に入れます。フィリップ王からの友情の印としての贈り物であります」と前口上を述べ、「それでは」と言った途端、ホレースが笑い出す。そして、絵に掛けた幕が外されると、皇太后の頭が切り取られて馬の頭に、馬の頭が切り取られて皇太后の頭の部分に張り付けてある(2枚目の写真)。ホレースの笑いは ますます激しくなる(3枚目の写真)。大使は、「特異なお子様ですな」と皮肉を言い、王は、「またもや。閣下、どうか謝罪を受け入れて下さい」と平謝り。王でなく、皇太后が 「ウィッピング・ボーイを連れて来なさい」と命じる。
  
  
  

ジェミーが連れて来られると、王は前回の倍の12発叩きを命じるが、皇太后は、それを15発叩きに上げる。そして、しなる棒が振り上げられる(1枚目の写真)。王は、「これを、そちの教訓にせよ」とホレースに言うが、彼はニコニコしているだけ。しかし、ジェミーが1回目と違い、“痛い” という表情すら浮かべず 自分を睨んでいるのを見て(2枚目の写真)、非常にむくれた顔になる。そして、刑が終わり、ジェミーがペックウィックの部屋にいると、そこに入って来て、「そちには、泣き叫べと申し付けたぞ!」と怒鳴る。ジェミーも、「放っといてくれ!」と怒鳴り返す(3枚目の写真)。「自分のためを思うんだったら、次は泣き叫べ!」。「やだ! やだ! やだ! やだ!」。「やれ!」。「やだ!」。「そちは、これまでで最悪のウィッピング・ボーイだ!」。
  
  
  

エニローズが下宿に帰ってくると、女将にコインを抜いた手紙を渡される。「よく見て、ちゃんと密閉してあるでしょ」(1枚目の写真、矢印)。「きっとジェミーからだわ。私がここにいるの知ってる人は、他に誰もいないから。読んで下さる?」〔エニローズは字が読めないのに、なぜジェミーは手紙を書いたのだろう?〕。「他人の手紙は読まないの」〔女将も字が読めない〕。エニローズが、手紙を読んでもらおうと階段を駆け降りて行くと、盗っ人の女将は、「週末までに部屋代払わないと、出て行ってもらうからね」と、ひどい言葉を浴びせる。エニローズが向かった先は、ネズミの賭けの胴元。しかし、彼も字は読めない。そこで、通りに出て行ったエニローズは、本を読みながら歩いている “立派な服装” をした老人に、「済みません。この手紙、読んで下さいませんか?」と丁寧に頼む。ところが、この根性曲がりは、「わしから離れろ、この浮浪児。でないと衛兵を呼ぶぞ」と ひどい言葉を投げかける(2枚目の写真)。そして、追い払おうとして、手に持っていたハンカチを振り落とす。エニローズが、「ハンカチが!」と言って渡そうとすると、このボケ老人は、いきなり、「泥棒!」と大声で何度も叫び〔泥棒なら、返そうとするハズがないことすら理解できない〕、衛兵が2人駆け付ける。エニローズは、「返そうとしただけよ」と反論するが、この威張り腐ったボケ老人は、「生意気なチビの売女め。こいつは、わしのポケットからハンカチを盗みおったのだ」と、自分が手に持っていたことすら忘れて告発する。エニローズは、「違うわ。落ちたのよ。嘘じゃないわ」と言うが、相手の方が格段に地位が高いので、エニローズが衛兵に連行される(3枚目の写真)。そして、裁判所に連れて行かれ、一方的な判断により、「ウォールバック刑務所で3年間」という無茶な判決が下される(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ペックウィックは、これまでホレースが一度も勉強に来なかったので、ジェミーという生徒を得て、楽しみながら仲良く付き合っている。ジェミーがホレースと喧嘩をした後、ジェミーはペックウィックの本にあったレオナルド・ダ・ヴィンチの飛行機を実際に作る。ペックウィックは、「ダ・ヴィンチの仮説は、鳥の本質である翼のある装置を作ることができれば、飛行現象を再現できるというものだった」と、教える(1枚目の写真、矢印)。ジェミーは、鳥のような飛行機を完成させる。2人は、さっそく窓から飛ばして試してみることに。飛行機は、3~4階ほど下にある舗石を敷いた広場の上に落ちる(2枚目の写真、黄色の矢印は飛行機、ピンクの矢印は少女)。それを取ろうとした少女が、衛兵に阻止されて馬車に乗せられるが、ジェミーは、それがエニローズだと気付く。エニローズの両腕は鉄の鎖でつながれているので、ジェミーはびっくりする(3枚目の写真)。ジェミーは、すぐに助けに行こうとするが、ドアの外の衛兵に阻止される。ペックウィックが、「ジェミー、どうした?」と聞くと、「あれ、エニローズだよ。僕の妹の」。「まさか。あの人たちは罪人で、裁かれ、ウォールバック刑務所に連れて行かれるんだ」。ペックウィックが、他のスケッチについて話している間に、ジェミーは机の上に置いてあったハサミをこっそり拝借する。
  
  
  

一方、ペックウィックの部屋を飛び出したホレースは、自分の部屋に行き、そこに置いてあった新品の乗馬用のロングブーツを履き、王の部屋に入って行く。そして、一緒に馬に乗ろうと頼む。王が、忙しいと断ると、「じゃあ、午後は? お願い」と すがるように頼む。それを聞いた王は、「大法官に、予定表に入れさせよう」と、OKする。「約束だよ」。「必ず」。しかし、ホレースが部屋で御付きのデブにブーツをピカピカに磨かせていると、そこに大法官が入ってきて、「殿下、陛下からの伝言です。陛下はご多忙であらせられるため、遺憾ながら、今日の乗馬は延期するしかないと、お伝えせねばなりません」と話す(1枚目の写真)。大法官は、国境の逆提案を、大使と乗馬しながら話し合うことにしたのだと教える。それを聞いたホレースは、復讐を誓う。そして、乗馬用の馬が置いてある場所まで行くと、悪さをしてから、国旗の陰からこっそり様子を窺う(2枚目の写真)。その効果はたちどころに現れ、大使が馬に跨ると、背中がつるつるなので、そのまま滑り落ちて 地面に落下する。王は、大使を助け起こしながら、「閣下、ご無事で何よりです」と言うと、部下の方を振り向き、「何が起きたのだ?! 誰に責任がある?!」と、怒りをぶつける。大使は、馬の背中に触り 「ガチョウ脂だ」と言うと、王に向かって、「これは、私に対する侮辱、我が主君フィリップ王に対する無礼な行為ですぞ」と、強く抗議する。「閣下、もう一度、心からの謝罪を受け入れて下さい」。「フィリップ王は、謝罪の言葉を集めるために私を送り込んだのではありません。過度に活発な少年による無分別な行為は、意図的な事態のように思われます」。「閣下、これは、全くの偶然だと保証致します」。「偶然ではありません。外交は失敗しました。より強烈な対策を講じる必要があります。私は、直ちに帰国致します」(3枚目の写真)。
  
  
  

大使が去った後、王はホレースを呼びつける。そして、「そちが何をしたか分かっておるのか? 余の王国すべてを危険にさらしたのだぞ」。「父上…」。「黙れ! 我慢の限界を超えた! 今回はウィッピング・ボーイを使わん。そち自身を厳しく罰してやる」。「私をですか?」。「そうだ。そちは、自分勝手で甘やかされ、この王国を継承するに相応しくない!」(1枚目の写真)。大使と下手な宮廷画家は、馬車で国に向かう途中で、“鼻つまみのビリーとカットウォーター” という、このあと何度も登場する2人の盗賊に襲われる〔原作では、大使は登場しないが、2人の盗賊は、映画と同様に重要な脇役。“鼻つまみ” は、ニンニクを首から下げていて臭いから〕。ホレースは、こんな城には もういたくなくなったので、ジェミーを一緒に連れて行き、召し使い代わりにこき使おうとして、寝室に行くが、毛布の下には、頭に似せた布の塊が押し込んであった(2枚目の写真、王子の右にあるバスケットは、当面の食べ物)。ホレースは、ジェミーを探そうと階段を下りて行くと、下の方から、石を叩く音が聞こえる。そこでは、ジェミーが、ペックウィックの部屋から持ち出したハサミを、鉄格子のはまった窓の石に打ち付けて、脱出しようとしていた。「ここにいたか」。「こんなとこまで何の用だ?」。「余は、逃げ出すつもりだ。召使が要る」。「僕なら駄目だ。妹がウォールバック刑務所にいる。助け出さないと」(3枚目の写真)。「余はウォールバック刑務所がどこにあるか知っている。そちは、知らないであろう。馬鹿なウィッピング・ボーイよ。そちは、余の助けなにしは、ここから出られん。余は、衛兵の扱い方を心得ておるぞ」。それを聞いたジェミーは 無駄な作業を止める。ホレースは、「その籠を持って参れ」と命じる。
  
  
  

ホレースは、ジェミーを自分の後ろに座らせ、大きなマントで全身を見えなくして騎馬のまま門に向かう(1枚目の写真、矢印はジェミーが隠れているマント)。王子が、「王のご用命だ、衛兵」と言ったので、門はすぐに開かれ、2人は問題なく城から出ることができた。そのままの格好で随分長いこと乗らされていたので、ジェミーは、「いつまでこうしてるんだ? 息が詰まっちまう」と文句を言う。ホレースがいる場所は 真っ暗な森の中。ジェミーに対する返事は、「余は、道に迷ったようだ」というもの。それを聞いたジェミーは、すぐにマントをめくり上げ、「ウォールバック刑務所への道を知ってると言ったじゃないか」と責める(2枚目の写真)。「だから?」。「もうたくさん。止めた!」。そう言うと、ジェミーは直ちに馬から下りる。「ここから先は、僕1人の方が早い」(3枚目の写真)。「待て、どこにも行くな。余が命令する」。「命令なんか知るか。妹捜しを手伝ってくれると思ったから、一緒に来ただけだ」。
  
  
  

すると、変な臭いがし、最初にジェミー(1枚目の写真)がカットウォーターに、次いで次にホレースが(2枚目の写真)がビリーに拘束される。2人は、大使を襲ってアジトに帰る途中で、ジェミーもホレースも立派な服を着ていたので、いいカモだと思ったのだ。ビリーは、ホレースの馬に括りつけられていたバスケットを開け、美味しそうな食べ物を見つける。ホレースが 「触るでない! 余らの昼食だ!」と言うが、お構いなしに齧り、上等の馬や馬具に感心する。カットウォーターは 「立派な服だな。賞金が稼げるぞ」と言う。それに対しても、ホレースは 「余らを放さなければ、その籠の中に入るのは、そちらの首だぞ。余は、王子だからな」と脅すが、ビリーは、もっと丁寧な口をきけと叱りつける。ホレースは、「ごろつきや、悪党や、強盗に手寧にせよと?」と反発。「凶悪な殺人犯を忘れとるぞ」と言われる。状況が変わるのは、ビリーが王家の紋章を見つけてから。さっそく、ホレースが 「そう申したであろう」と告げる。ジェミーは、事がややこしくなると困るので 「紋章は盗んだ」と言うが、何も分かっておらず、いばりくさるだけが取り柄のホレースは、「余は盗人(ぬすっと)ではない! 余はホレース王子、ブラーテンブルグの王位継承者である。そちらがすべきことは、余に頭を下げることだ」と、余分なことを言う。2人は、さっそく 「身代金を幾らにしよう」と話し合う。ビリーは 「体重と同じ重さの金だ」とカットウォーターに言う。ジェミーは、いい加減 黙ってろと、唇に指を当てる(3枚目の写真)。ビリーは、ホレースを抱き上げると、93ポンド〔42キロ〕だと言う〔現在の相場では、金42キロは3.7億円弱〕
  
  
  

ジェミーとホレースは、2人のアジトに連れて行かれる。2人は、さっそく、身代金を要求する手紙を書くための紙、ペン、インク、封印をするための蝋(ロウ)を用意する。しかし、その後に、大きな問題が持ち上がる。2人とも字が書けないのだ。そこで、カットウォーターは、ホレースに、身代金要求の手紙を書くよう要求する。ホレースは、「余は、悪漢や、人殺しの命令には従わん」と言うが、その瞬間、ビリーが巨大なナイフを ホレースの目の前のテーブルに突き刺し、「書かんと、足の指を1本か2本ちぎり取り、次には指も数本。その次は、両耳に鼻だ!」と脅す。ホレースは、「いやだ」と断り、ビリーがナイフを手に取ると、ジェミーが 「彼は書けないんだ」と教える。ビリーは、そんなことは信じないが、ホレースは 「彼は正しい。余は、自分の名前も書けぬ」と白状する。嘘だと思ったビリーが怒鳴ると、ジェミーは、「それを寄こせ、僕が書く」と申し出る。「お前が?」。ホレース:「そうなのだ。余のウィッピング・ボーイは手紙の名人だ。試すがいい」。この言葉を聞いたビリーは、カットウォーターの意見を訊く。「ウィッピング・ボーイが書けて、王子が書けない?」。「こいつらは、役割を変え、俺たちを混乱させようとしとるんだ」。結論を出したビリーは、2人に向かって 「もう誤魔化しは、なしだ。確かなことは…」と言い、ジェミーに向かって、「お前が王子だ!」と断定する。怒ったホレースは 「彼は余の召使だ。無学な浮浪児だ」と反論するが、「無学だ? 字が書けるんだぞ!」と、相手にもされない。ジェミーは、ホレースを助けようと思い、「僕のウィッピング・ボーイは筋が悪いんだ。この際、こうしてはどうかな。この手紙を持たせて彼を城に行かせる、そうすれば、追い払える」と、提案する。自分の身を犠牲にした、この “身代金を払わずに王子を王に送り届ける” 妙案に対し、威張ることしか考えないホレースは 「この愚かな浮浪児め! よくもそんなことが言えるな! こいつは詐欺師だ! 余は王子である!」と激怒するが(1枚目の写真)、邪魔なので 「黙っとれ!」と煩(うるさ)がられただけ。ビリーは、ジェミーを抱き上げ87〔39キロ〕と言うが、カットウォーターは身代金の減額に反対する。「93のままで行こう」。そして、ジェミーには、「王に、俺たちが破れかぶれだと分からせるんだ。俺たちが破れかぶれなことをするだろうと…」。ここで、ジェミーが 「もし、身代金がもらえなかったら」と調子を合わせ、「その通り! こう書いてやれ、俺たちは危険な連中だとな」。ここで、また、ホレースが口を出す。「余は、たったの93ポンドの金の身代金など拒絶する。父ならもっとずっと払うであろう」と、金の価格を知らないくせに、勝手な口を出す。ビリーは、「おまえの身代金の話などしとらん。お前が手紙の運び屋じゃなかったら、お前の頭をちょん切って帽子代わりにしてやるところだ」と脅す。カットウォーターは、「それがいいかもな」と言い出し、2人で話し始める。その機会に、ジェミーはホレースに、「この馬鹿! 奴らの頭を混乱させてやってるのが分からないんか?」と文句を言う(2枚目の写真)。すると、ホレースは、「余は、城に戻りたくないのだ」。「これは、お遊びじゃないんだ。君がここにいたら、殺されちゃうぞ」。翌朝、城では、王は戦争のことを心配し、王子の失踪が伝えられても、「そのうち戻る」と 何ら心配しない。アジトでは、ようやく手紙が書き終わりつつある。「あなたの従順な息子。王子オレース…」。ホレースが、「ホレース」と口を挟む。ジェミーが訂正して手紙は完成する。カットウォーターは、ビリーが、大使の馬車を襲った際に指からもぎ取った指輪をジェミーに渡す。ジェミーは、手紙を筒状に丸め、紐で固定すると、交点を蝋で固定し、その上から指輪の刻印を押し付ける。それを見て、2人は大喜び(3枚目の写真、矢印)。しかし、結果として、誰も予期しなかったことに、この “身代金の要求文” は盗賊ではなく大使が出したことになってしまう。
  
  
  

結局、2人は、ホレースに手紙を持って行かせるのは止め、ビリーが城の近くまでホレースの馬で行き、その馬に 手紙を縛り付けて、城門近くで放つことにする。そして、カットウォーターは、アジトで2人の少年の見張り役となる。その相談をアジトの外でしている間、ジェミーは煙突を調べ、逃げるには狭過ぎるので、ホレースに、「カットウォーターが戻って来たら、煙突から逃げたって言ってくれよ」と言って、藁の山の中に隠れる。すぐにドアが開き、カットウォーターが入って来て、「王子はどこだ?」と訊く。「余のウィッピング・ボーイは、そこら辺だ」。カットウォーターが、「どこだ?」と探し始めると、意地悪なホレースが、「藁の中だ」と暴露してしまう。それを聞いた瞬間、ジェミーは藁を被ったまま飛び出し、ドアが開いたままのアジトから逃げ出す。そして、アジトの前の斜面を駆け上がる(1枚目の写真)。この距離差は、ネズミを追いかけて暮らして来たジェミーと、中年だが体を鍛えていないカットウォーターの間で、広まるばかり。カットウォーターは、ジェミーの姿を完全に見失う。そして、後から分かることだが、“ジプシーの女性が飼っていて行方不明になった大きな熊” が目の前に現れ、カットウォーターは必死に逃げることに(2枚目の写真)。一方、アジトに取り残されたホレースは、身分の取り違いにブツブツ文句を言いながら、バスケットを持ってアジトから逃げ出す。そして、ジェミーを探しながら森の中を歩いていると、熊に遭遇する。幸いそれに気付いたジェミーは、ホレースに 「籠を捨てろ」と、熊の注意を引かないよう小声で何度も指示する。ホレースがようやくバスケットを地面に置いて逃げると(3枚目の写真、矢印)、熊はさっそくバスケットの中身を食べ始める。これで、ジェミーとホレースは一緒に逃げ出すことができた。ジェミーは、歩きながら、「何て頭が悪いんだ〔thick as a post〕。よく王子になれたな?」と言う。「王子として生まれたからだ」。「僕を危険にさらした」。「余を見捨てようとした」。「熊に食わせちまえばよかった」。
  
  
  

その頃、城の近くまで行ったビリーは、ホレースの馬を城門に向かって放つ。城門は直ちに開かれる。ビリーは、少し小高い場所に生えた大木に寄りかかり、引き出し式の小型望遠鏡を覗いて 様子を窺っている(1枚目の写真、矢印)。再び、ジェミーとホレースの場面。ホレースは、「余は、そちが余を見捨てた行為を許すことにした、ウィッピング・ボーイ」と言い出すが、ジェミーは 「どうでもいいや。行かなくちゃ」と、相手にしない。「だが、余は、そちを解雇してはおらんぞ」。「自分から辞めたんだ」(2枚目の写真)。その時、「ペチュニア」と呼ぶ 女性の声が聞こえる。2人は木の陰に隠れる。女性は、どんどん近づいてきて、姿を見せた2人を見て 驚いて足を止める。ジェミーは、「僕たち、危害は加えません。道に迷ったんです」と声をかける(3枚目の写真)。さらに、「ウォールバック刑務所に行きたいんです。妹を救いに。無罪なんです」。女性は、笑顔で、川を辿るよう教える。ジェミーは、代わりに、さっき熊に追いかけられたことを話し、女性は、2人が熊のペチュニアと会った方に探しに行く。
  
  
  

王は、手紙を見ながら、インクも紙も大使が使っていたもので、封蝋にフィリップ王の印璽が押されているのを見て驚く(1枚目の写真)。大法官は、「陛下、大使は、突如として去った時、苦し紛れの警告を致しませんでしたか? あの男は、強引な駆け引きをすることで知られております。導かれる結論は不可避です。大使は王子様を拉致致しました」と述べる。「だが、なぜ、金銭を要求する?」。「陛下を困惑させ、わが国をあざ笑うためです。挑発行為以外の何物でもありません。奴は、フィリップ王が戦争を決意していることを、既に暗示しておりましたから」。ここで、王は、意外なことを言い始める。「奴は、可哀想な我が子にこれを書かせたのだ」。それを聞いた皇太后は、「何を言っているのです? ホレースは書いていませんよ」と否定する。「もちろん書いていますよ、母上。ここに、彼の署名があります」。「あなたの息子は字が書けないのです」。それは、王にとって初耳の驚愕すべき話だった。「なぜだ? なぜ、誰も余に話さなかった?」。連れて来られたペックウィックは、「陛下、恐れながら… 全力を尽くしたのですが…」と弁解する〔しかし、教育に失敗したのだから、彼は そのことを、もっと前に父親たる王に告げるべきだった〕。大法官は、「陛下、軍を結集させましょうか?」と問い掛ける。王は、「いや、偵察隊を送り出せ。大使が国境に着く前に取り押さえよ。そして、従弟のフィリップがこの件に関わっていないことを祈ろうではないか」と言う。大木に寄りかかって見張っていたビリーの所にカットウォーターが現れ、2人に逃げられたと打ち明ける(2枚目の写真)。そして、すべてを巨大な熊のせいにする。その時、ラッパの音と共に城門が開き、衛兵を乗せた騎馬の一団が出てくる。金塊を持ってくるハズが、捜索の兵士。目論見が外れてしまった。2人に残された途は、王子をもう一度捕まえること。なお、城門を出てくる偵察隊は映像的によくなかったので、ここでは、彼らが橋の上にさしかかった時の映像(3枚目の写真)を使用する〔この橋の下には、ジェミーとホレースが隠れていた〕
  
  
  

ジェミーとホレースが橋の下にいたのは、先ほど、刑務所への道を尋ねた女性から川を辿るように言われたから。騎馬の一隊が去ると、ジェミーは、素手で魚を捕ろうとする(1枚目の写真)。理由は、バスケットを熊に取られたため、食べ物が何もなくなったから。しかし、ジェミーはネズミを素手で捕まえることはできても、魚には逃げられてしまう。それを見ていたホレースは、ジェミーに勝ってやろうと、上着を脱いで川に入って行くと、素手での魚捕りに挑戦する。そして、逃げられたが、最初に魚に触ることができたのは、ホレースの方だった。しかし、最初の1匹を捕まえたのは、やはりジェミー。ホレースも、2匹目を捕まえるのに成功(2枚目の写真)。これで、2人は、1匹ずつ、自分の食べる分を確保することができた。そこで、その後は、川の中で水を掛け合って遊ぶ(3枚目の写真)。
  
  
  

夜になり、2人は森で野宿することになるが、その前に、何とか火を起こして、焚き火をつくらなくてはならない。ジェミーは、恐らく “きりもみ式” で火を起こし、それに息を吹きかけて大きくし(1枚目の写真)、枯れ枝の中に突っ込んで火を燃え立たせる(2枚目の写真、ホレースが魚を2匹とも持っている)。ジェミーは、ホレースから1匹マスを受け取ると、細い木の枝で腹を裂き内臓を取り出す。ホレースもそれを見て、真似をする。下ごしらえが終わると、2人は、魚を枝に刺し、炎で炙る(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は、マスを焼きながら話を交わす。ホレース:「そちは、妹がなぜウォールバック刑務所にいると思うのだ?」。ジェミー:「誰かに危害を加えたためじゃない。僕らは、妹に、善悪の区別を教えたから」。「『僕ら』って?」。「僕と母さん」。「そちの母が、なぜ助けに行かないのだ?」。「冬の熱がさらってった。母さんに冥福を」(1枚目の写真)。「余の母は、馬に投げ出された。母に冥福を」(2枚目の写真)。食事が終わり、2人は焚火を挟んで横になる。ジェミー:「君の父さん、今、動転してるだろうね」。ホレース:「牡鹿の首のように 詰め物をして壁に掛かってないと、気付きもしないさ」。「でも、お城に戻らないと。王子なんだから」。「戻らないよ。こんなに楽しかったこと、生まれて初めてだから」。そう言うと、2人は、顔を見合ってほほ笑む(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、森の中の “当時としては立派な道” を2人が歩いている。一歩先を歩いているのはジェミー、後塵を拝しているのはホレース。ホレース:「そちは、もっとゆっくり歩けないのか?」。ジェミー:「君こそ、もっと早く歩けないのか?」。すると、下に見える道を 馬車がゆっくりと進んでいるのが見える。ジェミーは、馬車に乗せてもらおうと、坂を走って下り、馬車に向かって、「停まって!」と叫ぶ。ジェミーは、「1人乗せてもらえません? ウォールバック刑務所まで妹を助けに行かないと」と頼む(1枚目の写真)。ジプシーの男性は、喜んでジェミーを隣に乗せ、馬車を出す。ジェミーが後ろを見ると、ホレースが必死に走って付いて来るのが見える。それを見たジェミーは、「お願い停まって! 友だちを置き去りにしちゃった」と頼む。男性は 「なぜ、最初から そう言わんかった? そりゃ、良くないな」と言って、馬車を停めてくれる。馬車が停まったのを見て、諦めていたホレースが走り出す。一方、ジェミーは、自分が『友だち』 という言葉を使ったことを、今になって不思議がる。ホレースは、馬車の後に飛び乗る。馬車は再び動き出し、男はジェミーに後ろに行くよう指示する。後ろに行ったジェミーに、ホレースは嬉しそうな笑顔を見せる(3枚目の写真)。2人は、馬車の後尾に 仲良く並んで座る。
  
  
  

せっかく上手く行きそうだったのに、すぐに邪魔が入る。ビリーとカットウォーターが銃を構えて 馬車の前に立ち塞がったのだ(1枚目の写真)。ジェミーは、「忘れないで。奴らが探してるのは 僕で、君じゃない」と言うと、置いてあった大きな缶の中に隠れる。カットウォーターが馬車の後ろに回ると、そこにはホレースがいた。カットウォーターは、「こっちで何を見つけたと思う? ウィッピング・ボーイだ」と ビリーに叫ぶと(2枚目の写真)、ホレースを引きずり下ろす。ビリーは、「彼はどこだ? お前のご主人様はどこだ?」と訊くが、ホレースは、これまでのように自己主張せず、「知らない」とだけ答える。カットウォーターが缶の蓋を取ると、中からジェミーが顔を出す(3枚目の写真)。「探し物が見つかったぞ!」。ジェミーは、ホレースを放し、代わりにジェミーを掴む。馬車の男が助けようとするが、ビリーの肘鉄一発で気絶する 。
  
  
  

ビリーは、邪魔がいなくなると、ジェミーに対し、「あの手紙に何て書いた?」と詰問する。「何が言いたい?」。カットウォーター:「分からんか? 言った方が身のためだぞ。城から出てきたのは、金貨じゃなく、兵士どもだったんだぞ! 俺たちにとっちゃ最悪だ!」。「言うことなど、何もない」。ビリー:「こいつで殴って、思い知らせてやる!」。ここでカットウォーターが止めに入る。理由は、上流社会では、本人を叩くのではなく、ウィッピング・ボーイを叩くのが しきたりらしいので、そうしようというもの。そこで、ビリーはホレースを掴むと 上下逆さまにし、両脚を持って お尻を叩き易くする。それを見たジェミーは、「彼に構うな! 僕は王子だぞ!」と止めようとするが、カットウォーターは、「こいつは、ウィッピング・ボーイだ。二度と俺たちを騙すな」と、相手にしない(1枚目の写真)。ビリーは、「思い切り叩け」とカットウォーターに言い、ジェミーは 「止めろ!」と叫ぶが、ホレースは 「奴らに口をきくな。命令だ」と、ジェミーを止める。カットウォーターが叩いたのは15発以上なので、これまでジェミーが叩かれたより多く、多分、力も強い。その様子を、熊のペチュニアを連れた女性が見つけ(2枚目の写真、矢印は長さ1mほどの叩く棒)、「やっつけてらっしゃい」とペチュニアを放つ(3枚目の写真)。熊を撃とうとしたビリーをジェミーが邪魔し、悪漢2人は熊に追われてほうほうのていで逃げて行く〔最後になったが、ジプシーの男女2人とクマは、原作の主要な登場人物〕
  
  
  

お尻が痛くて横になったホレースに、ジェミーが 「奴らが満足するように、泣けばよかったのに」と言うと、ホレースは 「そちは泣かなかった」と答える(1枚目の写真)。「納得」。そこにやってきた女性が、ホレースのお尻の傷を、ジプシー流のハーブ療法で治療してくれる。そして、意識の戻ったジプシーの男が馬車を動かし、2人を刑務所への分岐点まで乗せて行く。2人が、そこで馬車を下りると、男は、「大聖堂を通り過ぎた所だ。間違えようがない」と、教える(2枚目の写真)。2人は口を揃えて 「ありがとう」と言う。そして、ジェミーはホレースと肩を組んで、「WALDBACH」と書かれた木の道標の方に歩いて行く(3枚目の写真)。2人は、もう友達同士だ。
  
  
  

2人は、刑務所の鉄扉のすぐ横にある鉄格子のある窓まで行くと、まず、ジェミーが木の窓板を叩く。番兵が顔を見せ、「何の用だ?」と訊く。「僕の妹が中にいる。所長に会いたい」(1枚目の写真)。番兵は、相手にせず、すぐに窓を閉める。ジェミーは、もう一度窓板を叩く。「それで?」。「お願いです。僕の妹は まだ8歳なんです。そして、無罪なんです」。「無罪だ?」。番兵は、相手にせず、すぐに窓を閉める。ここで、ホレースがバトンタッチし、「開けよ!」と命じながら 窓板を叩く。「今度は、何だ?」。「余らを中に入れるよう命じる。余は王子であるぞ」。「いたずら小僧の王子か? 失せろ!」。「余は、失踪中のホレース王子だ。中に入れるよう要求する」(2枚目の写真)。番兵は、相手にせず、窓を閉める。がっかりして路地に座り込んだジェミーを見たホレースは、隣に座ると、「ジェミー、どうすればいいか分かったぞ」と声をかける。ジェミーは、「妹を永遠に失ってしまった。僕のせいだ」と落胆して、ホレースの言葉が耳に入らない。「やり方が分かった」。「まさか」。「父にエニローズを許すよう頼む。王は、誰でも許すことができる」。「でも、城に戻らなきゃいけないよ」。「王家の者は、常に願いが叶うわけではない。さあ、行こう」。
  
  
  

ビリーとカットウォーターは、城のある町に行き、犬とネズミを争わせて賭けをしている胴元に、金を貸してくれるよう頼む。そして、自分達が如何にすごいワルかを示すため、あちこちに貼ってあったホレースとジェミーの似顔絵を描いた捜索用のポスターを胴元に見せ、ホレースの絵を指して、このウィッピング・ボーイを叩いてやったと自慢する〔前にも書いたが、字が読めないので、王子と書いてあっても 2人には理解できない〕。しかし、胴元は ネズミ捕りのジェミーをよく知っていたので、2人が叩いたのは王子だと教え、縛り首になる前に逃げろと忠告する。外に出たビリーは、「隠れる場所はなくなった。だが、王子はいつか城に戻るだろう。その前に、捕まえて2人とも殺してしまえば、逃げなくて済む」と、非情なことを思いつく。場面は、変わり、刑務所のある町から、歩いて、城の町まで戻った2人が歩いていると、後ろからビリーが跡を付けてくる(1枚目の写真、矢印)。幸い、捕まる前に2人は気付き、走って逃げる。2対2だが、ここはジェミーが生まれ育った町で、ネズミ捕りをしていたので、地理には詳しい。そこで、下水渠に入る蓋を開け、ホレースを先に行かせる(2枚目の写真)。ジェミーが蓋を閉める前にビリーが気付いたので、敵2人も同じ所から中に入って来る。ジェミーは先導して下水渠の中をどんどん走って行く(3枚目の写真、矢印はネズミ)。
  
  
  

かなり奥まで入ったところに、壁に入口が開いていて、そこに一面にクモの巣が張っている場所がある。ホレースが入って行こうとすると、「そこじゃない。停まって! そっちには 醸造所のネズミがいる」と止める。「だから? 君は、ネズミ捕りだろ?」。「この向こうは、みんな怖がって入らない。ネズミが 麦芽と大麦で巨大になってるから」。それだけ言うと、あたかも、そこから2人が入っていったように見せようと、手でクモの巣を破る(1枚目の写真)。そして、手前の小部屋の壁に張り付くように隠れる。そこに、一歩一歩確かめながらビリーとカットウォーターが近づいて来る。2人は、いつでもホレースとジェミーを殺せるように、銃とナイフを手に持っている。ビリーが、2人が隠れている小部屋の前まで来ると、カットウォーターが 「奴らは、暗闇に隠れているに違いない」と言い、クモの巣の中を指す(2枚目の写真、矢印はカットウォーターの手、その右がビリー)。2人が入って行ったことを確かめた2人は、来た道をそのまま戻り、下水渠に入った場所から外に出る。一方、ビリーとカットウォーターは、全身に大きなネズミをぶら下げて別の出口から抜け出て来る。そして、ネズミを振り落としながら、必死に逃げて行く(3枚目の写真、矢印はビリーに噛みついたネズミ達)。
  
  
  

ホレースとジェミーは、城門に向かって真っ直ぐ歩いて行く。城門の上から、衛兵が、「何の用だ?」と訊くと、ホレースは、「余の顔をよく見よ、衛兵。余は、ホレース王子だ」と言う。刑務所の番兵と違い、いつも王子を見ていた衛兵なので、すぐに気付き、門が開けられる。ホレースは、ジェミーを引き連れ、堂々と門をくぐって行く(1枚目の写真)。城門の中は、戦争の用意が粛々と進められている。城の中心では、王が、「将軍、馬の用意をせよ。余は、前衛部隊と一緒に行く。1時間以内に出発だ」「ファルコンハースト、フィリップ王への使者が要る。国境で息子を引き渡さない限り、侵攻すると伝えねばならん」と、矢継ぎ早に命令を出している。そこに、ホレースが入ってくる。王は、その薄汚れた姿を見て、「何をされたのだ? 断じて許さぬ! 戦争の用意だ!」と、大法官と将軍に命じる。さらに、「この誘拐に対し、慈悲を示すことはあいならぬ」。ここで、ホレースが、「誘拐されたのではありません」「逃げ出したのです」(2枚目の写真)と白状し、状況は一変する。「逃げ出した?」。「私がいなくなっても、気付かれないと思いました」。「なぜだ? どうしたら、そんな考えが浮かぶ?」。ホレースは肩をすくめる。「質問に対する答えを知るべきかもしれぬが、今は、ここにこうして戻って来てくれた。それで十分だ」(3枚目の写真)。ホレースは謝罪するが、王も、ホレースがまだ12歳の子供だということを忘れていたと謝罪する。
  
  
  

王の間の正面に国王、その左に皇太后、その右にホレース王子の3人が座っている。王は、「この条約により、国境紛争は解決された。従弟のフィリップが、余らの父たちが長い時間をかけて策定したものを破壊することは恥ずべきことだと認めた。彼の大使に欠けていた視点だ」と、公式な見解を述べる。そして、より私的な話題へと進む。3人の遥か前方には、ジェミーとエニローズが立っている。「それでは、余の前に “息子を真夜中に盗み出した悪餓鬼” を連れて来なさい」。その言葉を聞いたジェミーは、「でも、陛下…」と言い始めるが、王は、「そして、よい息子にして 連れ戻した」と付け加える。皇太后は、「良き父にも」と言う。「ウィッピング・ボーイを連れて来なさい」。今度は、ホレースが、「父上、私の友達です」と口を挟む。王は、「そなたが、これまで持った最高の友達だ。だから、もうウィッピング・ボーイではない」と言う(1枚目の写真)。ジェミー:「僕の妹はどうなります?」。「不当な処置に彼女が苦しんだことに鑑み、エニローズは完全赦免とする」。これに対し、エニローズは、「私は許しを望んではいません。私は無実です」と、王の処置に反対する(2枚目の写真)。それを聞いた王は、笑い出し、「結構。余は、そなたの無実を宣告する」と言う。「受け入れます、陛下」。そして、王は、最後に、「余は、2人を王室の一員である旨宣言する」と驚きの言葉を発し、「2人に部屋を見せてあげなさい、ホレース」と声をかける。ホレースは、すぐに立ち上がると、満面の笑顔で2人に近づいて行き、「おいで、エニローズ」と言って、走りながら連れて行く。残されたジェミーは、上を向くと、「ちゃんとした住まい〔Proper lodgings〕だ」と、嬉しそうに言い、2人の後を追う〔原作のラスト。王はジェミーに好意的だが、映画のような “超ラッキー” ではない。ジェミーをホレースの友人として認め、「そなたは、王子の保護下に入る。ただし、王子がちゃんと勉強をし、蝋燭を消してから眠り、行儀よく振る舞うことが条件である」と言う。そして、2人に汚い服を着替えるよう指示した後、「もう1つ。もし、そなたらが、また逃げ出したいと思ったら、余を連れて行くのだぞ」と声をかける〕
  
  
  
  

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